Satoko Tanaka
京都府出身。日本でアパレル会社での勤務を経て2012年よりベルリンに移住。2013年にビンテージ着物ブランド「KIMONOMONO」の運営を開始。2018年に「caico.vintage」にリブランディングし、レアな古布を扱う「caico vintage BLUE」も運営。
現在はベルリン市内のフリーマーケット・ポップアップイベント出店・オンラインを中心にブランドを展開中。
・Instagram|Caico vintage Kimono
Interview/text : Tatsuo Okazaki
Photo : Fuko Chiba
簡単な自己紹介をお願いします。
京都出身。ベルリンには10年くらい住んでいて「caico.vintage」という屋号で、ビンテージ着物を販売しています。
定期的に日本に滞在して着物を買い付けています。ベルリン市内でたまにフリーマーケットにも出店しています。コロナからはオンラインメインに。
ベルリンに移住するまでの経緯を教えてください。
日本ではファストファッションブランドに勤めていました。ストアマネージャーをやっていた20代後半の時、昇進する話を持ちかけられた時にその仕事を続ける意味や価値を考え始めました。本社がヨーロッパだったのでバケーションもしっかりとれ仕事内容に不満はなかったものの、他の生き方をしてみたくなりワーキングホリデイ制度が使える最後の年までに海外のどこかに住んでみようと思うようになり退職しました。
ベルリンを選んだ理由は...知人からのお勧めです。ドイツなのにインターナショナルな雰囲気で英語も通じるしアートやカルチャーも面白いという噂を聞いていました。
あと、生活の満足度も欲しかったのでコスパや物価を気にした結果ベルリンを選びました。
移住した年の2012年は1ユーロが100円くらいでした。
ベルリンに住み始めた当初の話を聞かせてください。
住み始めたのは2012年の6月。最初の一年はバイトも見つからず住まい探しにも苦労しました。ずっとアパートを探してて無駄な時間が多かった。レストランで短期的に働いたりもしたけど、やりたいことではないと感じていたし、結局ワーホリビザで1年滞在したけど...何もできなかった。
それがすごく悔しかったからビザを更新しなきゃいけないタイミングで、語学学生ビザを取得して滞在を伸ばしました。「この滞在延長の間に何もできなかったら帰国しよう」と。
でも、ストレスと焦りで苦しかったですね。「ベルリンに住む選択は正しかったのだろうか」と、ずっと自問自答していました。
現在のビジネスに辿り着いたのはどういう経緯だったんですか?
そんな時期に一時帰国した際、日本の「着物」が目に入りました。
織り、染め、刺繍、様々な意匠、技術をこらされた生地を贅沢に身にまとう。なんて美しい衣服なんだと自分が育った国の文化ながらカルチャーショックを受けました。
着物は自分が身を置いていたファストファッションの製品とは全く温度の違う衣服でした。
成人式に着た着物も借り物だったし、今まで着物を身近なものとして考えたことは無かったのですが、それが逆に着物に対して先入観を持たずに接することが出来ました。
夢中で自分が良いと思うものを買い集めそれをベルリンに持ち帰りました。
自分の居場所をうまく作ることが出来なかった移住1年目を過ごし、この土地でやっていくには「日本人とゆうアイデンティティを使った方が得策ではないのか」、そして日本人という事に対して好意的に思ってもらうためにも「日本の良いところを伝えたい」という思いが芽生えていたので、着物は「これだ!」という感じのものでした。
元々アパレル業界にいたので着物を「日本好きの為のオリエンタルな衣服」としてではなく「ファッションが好きな人へのファッションアイテムのひとつの選択肢」として提案することを心がけました。他の衣服のように気軽にワードローブに加えてもらえるような存在にしたいなと。それがきっかけで日本の事に興味を持ってもらうのも面白いなと。
持ち帰った着物をまずはフリーマーケットに出店しました。
ダイレクトにお客さんの反応を見られるのが楽しかったし、勉強になった。フリーマーケットの出店は体力を使いますが、それに見合う手応えも得られるのでやっていて楽しかったです。
コラボレーション企画もたまにありました。衣装としてレンタルしたり、スタイリングもしたり、いろんな企画に立ち会ってきました。コラボレーションが頻繁に生まれるのもベルリンの楽しいところだと思う。
2018年に屋号を「caico.vintage」に変更。これは蚕、懐古、回顧のダブルもしくはトリプルミーニングで着物だけではなく、もっと古いモノと真摯な気持ちで向き合って行こうと名づけました。
ビジネス以外の生活の変化はありますか?
3年ほど付き合ったドイツ人の彼と結婚し、結婚5年目に離婚をしました。私に変な甘えがあり、どこかで男性にサポートされていたいと思いがあったんだと思います。
今思うと彼は十分にサポートしていてくれた方だと思うのですが、コミュニケーションの取り方に問題があったように思います。
結婚していた時、南インドに義父の別荘があったのでよく訪れていました。そこでアーユルヴェーダと出会い、今でもアロマやスパイスの配合など普段の生活に取り入れたりしています。良い経験になったと思います。
ライフスタイルを教えてください。
最近引っ越しをしました。今住みだしたアパートは、いわゆる最新のノイバウで敷地内にコ―ワーキングスペースもあります。天井は低いしアルトバウのようなチャーミングさは無いのですが床暖房が付いていたりと徹底的に合理的です。
以前住んでいたアルトバウの最上階はメゾネットタイプで天窓もありチャーミングでしたがそれはもう階段の上り下りは過酷でした。
最近は新しいエリアでの生活にも慣れ、自宅でオンラインショップの商品撮影を行い、コ―ワーキングスペースで画像編集や事務作業をしています。
自宅以外にワーキングスペースがあることの重要性を最近かみしめています。はかどり方が全然違う。
ベルリンのお気に入りスポットを教えてください。
シャルロッテンブルクにあるブレーハンミュージアムが好きです。ユーゲントシュティールやバウハウスなどの所蔵品が充実していて好きです。企画展も気になるものが多いです。スポット情報
名前:Bröhan-Museum
住所:Bröhan-Museum,Schloßstraße.1a,14059 Berlin
アクセス:Sバーン Westend駅から徒歩10分、Uバーン Richard-Wagner-Platz駅から徒歩10分
時間:火-日曜 10:00~18:00 / 月曜定休
HP:公式サイト
興味のある商品に対してヘタなドイツ語でお店の人に質問をしたりするのですが、普段シャイなくせに興味あるものに関しては割りとグイグイ聞く事ができます。
あと一番の出没スポットは蚤の市です。風邪ひいてても行きます。
独り言を言ってたり、指差し確認みたいなことをしているちょっと変な人が居たら私かもしれません。
古い着物を通じて改めて日本を好きになったのと同様、ドイツの古い陶器や道具などを見て改めてドイツが好きになったような気がします。
蚤の市だけでなく市内各地でやっているwochenmarktも好きです。屋台のご飯も美味しい!
お気に入りはWittenbergplatzやWinterfeldtplatzのマルクトで出店されている天然のハーブやお香を扱っているスタンド。そこでたまに他ではなかなか買えないハーブや香木、樹脂香を買ったりします。
スポット情報
名前:Winterfeldtplatz
住所:Winterfeldtplatz,10781 Berlin
アクセス:Uバーン Nollendorfplat駅から徒歩6分
時間:毎週水曜日 08:00~14:00 / 毎週土曜日 08:00-16:00
HP:公式サイト
ベルリンで暮らす上でのお気に入りアイテムを教えてください。
前回の日本一時帰国時に無性にドイツのパンが恋しくなってから、パンに対する愛情が前より強まりました。
特にスペルト小麦で作られたディンケルブロットが好きです。お通じも良い気がします。
近所のベーカリーでは常時様々な種類の小麦粉を扱っていて、クレープにはこの粉、パンケーキにはこの粉とアドバイスをくれます。
スポット情報
名前:Das Mehlstübchen - Die Mehlmanufaktur
住所:Leberstraße 28, 10829 Berlin
アクセス:Sバーン Julius-Leber-Brücke駅から徒歩3分
時間:月 - 金 09:00~18:00 / 土曜 09:00~14:00 / 日曜・祝日定休
HP:公式サイト
このベーカリーのクロワッサンは街で一番好きです。
スポット情報
名前:Gorilla Bäckerei(schöneberg)
住所:EUREF Campus 1, 10289 Berlin
アクセス:Sバーン Schöneberg駅からすぐ
時間:毎週日曜日 08:00~18:00
HP:公式サイト
あとはスープや煮込み料理を作ることが多いのですが、冷凍のSuppengrünは常時冷凍庫に入っています。この商品は切る手間もないし、一人暮らしにちょうど良いサイズ。
Suppengrün
ニンジン、セロリ、ニラ、タマネギ、パセリなどのスープ用野菜セット。ドイツではこれでスープを作るのが定番。
EDEKA.de
ベルリンはどんな街ですか?
移住した当初は良い意味でも悪い意味でも「洗練されてない。なんでもあり」なイメージの街でした。
住み始めた頃はそこに可能性を感じて「挑戦してみよう」という意欲に繋がりました。ただ、ここ10年で物価も上がり、正直生活していく上で気楽さは無くなりました。
それに加えて自分は古いモノや伝統的な文化が好きだという事に気づきベルリンに少し物足りなさを感じるようになってきました。
モノが好きな人と私は惹かれ合うようで、ディーラーさんとかと少し話すと「ねえちゃん、わかるんだねえ」みたいに心を開いてくれる。モノ好きのうんちくを聞く時間はいつも楽しいです。
それは日本に居ても同じ時間の使い方をしているのでこれはもう一生付き合っていく趣味でありちゃんと仕事にしていきたいと思っています。
何でもありな自由な街に10年住んでみたら「よくわからない」と思っていた伝統や秩序が案外好きだった自分を発見しました 笑。ベルリンの変化と、自分の興味の溝が年々大きくなってる昨今です。
この街に残るか、他の街に行くか。いずれにせよ「美しいと思うモノを得られるか」どうかということにこだわって、今後の方向性を選択していきたいです。
2022年5月
Mauerparkにて
インタビュアーより
ベルリン市内のフリーマーケット・ポップアップイベント出店・オンラインを中心にブランドを展開中。活動情報はInstagramにて。
Instagram|Caico vintage Kimono