“価値観の全てを吹っ飛ばしてくれた街” ベルリン移住後に見えた自分の可能性

Sachi

大手国際線CAとして10年乗務したのち、親の反対を押し切り退職。無職・独身・VISAなしでベルリンに移住し現在は2児の母。昼間は現地企業にて経理・事務・人事を担当、その傍ら今年から念願のグラフィックデザイナーとして個人事業主となる。得意なことはマニュアル左ハンドルのワゴンで縦列駐車できること。
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Interview/text : Tatsuo Okazaki
Photo : Fuko Chiba

ベルリンに移住するまでの経緯を教えてください。

日本では某航空会社の国際線CAでした。仕事上月半分以上は海外という生活を送りながら、日本社会の中の生活に疑問や違和感を覚えながら仕事していました。国際線を飛ぼうが結局超ドメスティックな環境だったので「やっぱ海外しかない」って感じてました。
よく考えたら、小さい頃から日本のいろんなところがずっと疑問で「みんな同じに、みんな一緒にー」みたいなのなんか息苦しくて、幼稚園で「あいうえお」を習っている時すでにアルファベットの方に興味が向いてたのも、そんな「ここじゃない感」からだったのかも。人に合わせるのがとにかく大嫌いで、変わってましたね。

 

「海外どこ住もうかな」ってなった時に、まず日本人が来ない場所を選びました。
日系エアラインが飛ぶってことは、その街には日本人がいるってことだから除外。それくらい日本から離れたかった。仕事で色々行く中で、ドイツの空気は割と好きだったけど、そんな理由でフランクフルトやミュンヘンとかは選択肢に入りませんでした。マイノリティになりたかったですね。
そんな時にドイツ人の同僚に「サチはベルリン行くべきだ、絶対合うよ」って言われて、行ったことないんだけど「そっか!」って決めました。

会社で1年間の休暇制度があって、選考があるんだけど「ベルリンで語学の勉強して帰ったら会社に貢献するので休暇をください」って申し込んだら、まさかの選考通過。会社に籍を残したまま一年ベルリンで暮らすことになりました。
まあ通らなかったら会社辞めて行く予定だったんですけど。

 

ワーホリビザで、2012年にベルリンに来ました。最初テーゲル空港に降りて、空港からアレックスまで行くバスに乗ったんだけど、その窓から見える風景が、なんというか首都のくせにすごくカオスで、エネルギーがあって「マトモじゃないなこの街」って思えて「よし、ここに骨埋めよう!」ってとこまで乗車中に決めました。
ベルリンの持つ異様な空気感に一発でハマりましたね。今はだいぶきれいに洗練されちゃったんですけど。

ベルリンに住み始めた当初はどういう生活でしたか?

飲み歩いて、パーティして、二日酔いのまま語学学校。ちなみに皆勤賞。
学校帰りに公園で日光浴しながら、ビール飲みながら復習。それが毎日。1年そんな暮らしをしてから、日本の会社に戻りました。ベルリンにいたとき刈り上げたアンダーカットの剃りが帰国時全然伸びきらなくて、しばらくボブで隠してCAやってました。

 

帰国後はもう憑依されたような別人状態で「ベルリン移住計画」しか見えていませんでした。すごい集中力で、毎日NHKのドイツ語講座をずっと聞いて、ビジネス英語も磨きまくって、一切飲みに行かずストイックになってました。同僚がステイ先で買い物・観光に出かける中で、私は公園でひたすら語学を勉強。飲まなさすぎてめちゃめちゃお金が貯まったので、それまでいかに散財していたのか自分でも驚愕した記憶があります。

予想以上に早く貯金もできたことが後押しとなって、脱日本計画を前倒ししました。復職後1年も経たずに退職して、ベルリンに戻ってきたのが2014年。みんなにおかえりって迎えてもらえました。

本格的に移住してからのことを教えてください。

2014年の頭に「さあこれからベルリン住むぞー何やろっかな」って時に、友人に食事会に誘われたんですよね。そこでドイツ人男性と知り合い、付き合うことになって、半年後にもうお腹おっきくなってたという。自分でもこの展開は読めなさすぎてびっくり。
でもベルリン移住即決した時と同様に、「この人と家族を築くかも」って直感があったので全く不思議でもなかったです。つまりベルリンでは直感のみで生きてるって感じですね。

渡独後1年経たないうちに大きいお腹でバタバタ挙式したんですが、パーティーがまた強烈でしたね。ゲストは新郎の親族だけで40人、ベルリン出身のバンドマンだった彼の地元友達50人+私の家族と友達で20人くらい。バンド、DJ、たまに酔っ払いゲストの飛び込み出し物、最後はカラオケ大会。小さなカフェにゲストパンパンでフロア揺らしてました。あとCAお約束の寿アナウンスを外資系エアラインの友人の制服借りてやったり。もうめちゃくちゃ!

もともと、人が人を呼び、縁が縁呼ぶケミカルエフェクト起こすタイプではあったんだけど、ベルリンに来てからそれがもっと顕著に現れてます。

出産してママになってからのことを教えてください。

子供は水中出産で産みました。
クロイツベルクの病院で水中出産ができるジャグジーがあって「なんか良さそうだな!やってみたい!」って。無痛分娩との併用ができないんだけど「まあ痛かったらそれも経験だ」って、実際にやってみたら、痛いながらもリラックスしながら出産できてすごくよかった。ちなみに当日の助産婦さんが腰痛持ちだと水中出産できません。

2015年に1人目が生まれたら、翌年2人目も立て続けに。予想外の連続!こっちももちろん水中出産。
その後、夫の仕事の都合で2017年にデュッセルドルフに引っ越しました。「ベルリン住むために脱日本してきたのに、よりによって欧州最大の日本人街なんてムリムリ、Auf keinen Fall!」って反対しました。

 

結局、必ず帰ることを条件に4年住みました。
「子供の小学校は絶対ベルリン!」っていう条件は譲れませんでした。収入的にはデュッセルの仕事の方が全然よかったし、オランダやベルギーも近いし、夫は気に入ってたけど、街全体の思考とか価値観が全部違うから、私には合いませんでしたね。

デュッセルドルフは、グッチとエルメスとアバクロが小さな街の中心にあって、クラシックカー趣味の男性とか、ファーコート着てる女性がたくさんいて、小学生もリアルファーのウールリッチを着てるみたいな、いわゆる「富裕層の街」でした。
東京住んでた時にそこら辺の価値観を全部捨て去ってきたから、今さらその嗜好には興味がなくなっていました。遊びに行くのがつまんなく思えてたから、年子の育児に専念できた点では逆によかったです。
2021年にベルリンに戻ってきて「やっぱここがホームだな」って、今新鮮な気持ちを味わってます。

育児は大変ですか?

育児期間は経験値がメキメキ上がりましたね。

子供を連れて日本に帰国した時はまじでやばかったです。仕事があるので夫は先にドイツ帰るんだけど、そうなると私が子供二人連れて飛行機に乗るんです。子供がそれぞれ2歳と10ヶ月の時、フライト中に長男のオムツが大爆発!次男は一人にするとビジネスクラスまでハイハイで脱走するから、次男を背中にくくりつけて長男のオムツをトイレに換えに行きました。トイレの個室で爆発オムツ交換してる後ろで、長男が「ギャー」とか大泣きしてるの。地獄!そしたらなんかやばすぎて笑っちゃって。「人間は、限界までやばくなると笑えてくる」っていう一つの学びを得ました。
次の年は、機内のシャワーを長男がイタズラで捻って水浸しにしてました。元CAだからなおさら、あり得なさがわかる。ここらへんのネタは無限にあります。こういうところで「母の強さ」は鍛えられますね!

育児の教育面のお話を聞かせてください。

夫はドイツ人だけど何千語だったか日本の高校生レベルの漢字を勉強した後、仕事でビジネス日本語も習得しました。
でもその勉強にすごく苦労したから「ママが日本人なのに日本語が弱いなんてもったいない」って思っています。だから、子供の語学力を上げるために「ママには日本語だけ!」って徹底しています。「ママ、Wasser(お水〜)」って言っても理解できないふりしてました。
夫は子供とはドイツ語のみ、私とは日独ハイブリッド。
こんな感じで最初はママはドイツ語が使えないことにしてましたけどさすがにもうバレました。長男はだんだん小賢しい日本語の使い方をしてくるようになってます。友達みんなで公園で遊んでる時に「ママ」って私を呼ぶのが恥ずかしいから、周りがわからないのをいいことに「お母さん」とか言ってくる。
次男は、アイデンティティがドイツ語寄りなので、思ったことを日本語に変換して私に伝えるのがまだストレスみたいです。よく夫にドイツ語で泣きついています。最近は日本語のポケモンを見せたりして工夫しています。

 

ドイツの育児・教育を見ていると、小学生でも自分の意見を主張するパワーがすごいと感じます。「空気を読む」とかもしません。理由を考えてみると「子どもがどんなテキトーなことを喋っていても、大人が遮らない」ことに気がつきました。
子供でも、相手の主張は最後まで聞くし、舐めない。「じゃあ、おやつあげないよ!」みたいな、子供からしたら理不尽な交換条件も聞いたことがありません。
親子関係以外でもそう。「対等な立場で、相手の主張は最後まで聞く」が浸透してる。
だから、大きくなっても自分の意見は萎縮せずにしっかり伝えるし、自分の行動や言動の理屈と責任をしっかり考えて発言できるようになるんだと思います。

1日のライフスタイルを教えてください。

だいたい起床は6:30。幼稚園に次男を送りに行くのは8:00です。 勤めている会社のリモートの事務業務が9:00にスタート。日によってはデザインの仕事だけど、どっちにしろこの時間は超集中です。子供がいない時間に家事はしません。 16:00に子供を迎えにいって、天気よかったら散歩とかも入れるけど17:00くらいにはみんな家にいる状態。そこから子供をお風呂に入れたり、洗濯したり、怒涛の家事タイム。 子供たちのお風呂は、3歳くらいから自分で入るように言ってあって、自分達で工夫しながら洗ってます。最初は寂しそうでしたが、今は楽しそうにやっています。 18:30くらいに夕食。20:00くらいに子供が寝て、そこから休憩時間です。休憩しながらグラフィックデザインの勉強したり、ドイツ語のニュースをみたりしています。親の就寝は22:00とか23:00。

 

買い物は週末に大量に購入を済ませて、平日の買い物の1回あたりの量をなるべく減らしています。洗濯とか掃除とかは、元々超几帳面だったけど「溜まってたら視界から消す」という特殊能力を身につけました。やらなくても死なないものは週末にまとめてやります。 今はデザイナーとしての自分に投資してる期間だから、極限まで自分の時間を捻出して、そこにあまりリソース取られないようにしています。

デザイン業を始めた経緯を教えてください

小さい頃から絵やデザインが大好きで、実家の改装の際に庭のデザインをさせてもらったのがすごく嬉しかったのを覚えています。業務用カタログを片っ端から読んだり工務店さんとか回ったり。ドイツに来て「デザイナーになろう」と思い立ったもののどこから始めたらいいのかわかんなくてしばらく子育てを言い訳にしていました。子供の手もかからなくなってきたので「さあ自分を変えよう!」と思い立って、高額タブレットやPC、ガジェットを買い込みました。SNSでも友人に宣伝し、グラフィックデザインの営業届も出して自分を追い込みました。これで簡単には後戻りできないので一番手っ取り早いですね。大概のことは調べたら情報が出てくるから、賢くやれば独学もできます。最近は仕事も増えてきました。

 

ベルリンの「周りが気にならない」って気質はデザイナーを始める上で追い風になりました。”自称アーティスト”が多すぎで、ヤバイやつをベルリンでいっぱい見てきたから「これくらいできないとデザイナー名乗っちゃいけないのかな?」みたいな萎縮は必要ありませんでした。むしろ「名乗ったもん勝ち」みたいな雰囲気があって、そんな街の雰囲気からパワーもらってます。 「本気で言ってんの?」みたいなことをみんな言ってて、みんなそれを喜んだり応援したりしてて「人生って自由でいいんだな。不可能ってないんだな」ってことを肌で感じさせてくれるのがベルリンの空気です。他の人のハードなトライをみてると、自分のトライは超楽勝だなって思えてきます。

ベルリンのお気に入りスポットを教えてください

Großer Müggelseeの近くのFlohmarkt。Flohmarkt Friedrichshagenが好きです。
小さいんだけど、DDRのものがいっぱいあったりして面白いですね。

スポット情報

名前:Flohmarkt Friedrichshagen
住所:Schöneicher Str. 1, 12587 Berlin
アクセス:Sバーン Friedrichshagen駅
時間:毎週日曜日 08:00~16:00
HP:公式サイト

あと、競馬場でやってるFlohmarkt、Antikflohmarkt Trabrennbahn Berlin Karlshorst。
これは規模がとにかく大きい!売ってる商品も結構ハズレがないし、流行りのインダストリアル系を扱ってる業者とかも多い。近所だけど買いすぎた時のことを考えて車で行くくらい好き。
昔から皿とかヴィンテージ品が好きで中学生の時から収集してたんです。だから目が肥えてる自覚があって、このFlohmarktは間違いないやつです。本物のヴィンテージ品に巡り合える感動があります。ドイツ人の「捨てない精神」は本当に大事。Flohmarktを通して感じます。

スポット情報

名前:Flohmarkt、Antikflohmarkt Trabrennbahn Berlin Karlshorst
住所:Treskowallee 159, 10318 Berlin
アクセス:Sバーン Karlshorst駅
時間:毎週第1土曜日、日曜日 09:00〜17:00
HP:公式サイト

ベルリン生活のお気に入りアイテムを教えてください

ガルザイフェ。染み抜き石鹸です。dmで1ユーロくらいで購入できます。
日本でも雑貨屋さんとかで売られていますが、帰国の時に毎回買います。
これ、めちゃくちゃ汚れが落ちる。「落ちない汚れがないんじゃないか...」くらい落ちる。
先日も、大事な布の上に子供のスライムがめっちゃトロけて、めちゃくちゃ色がついたんだけど、ガルザイフェが完璧に落としてくれました。ガルザイフェ最高。

ガルザイフェ

ドイツのポピュラーなシミ抜き用石けん。130年以上の歴史を持つ。牛の胆汁がもつ乳化作用でガンコな汚れをしっかり落とす。
Amazon.de / 日本語公式サイト

あと髪を染めている人におすすめの紫色のカラーシャンプー。バリアージュでブリーチした毛先がオレンジっぽくなりやすいアジア人でも、アッシュっぽい綺麗な色にもどしてくれる。なにより安い!高いものも色々試したけどこれがいまのところベスト。

Swiss-o-Par / Shampoo Silver

ブリーチまたは白髪用に開発されたシャンプー。髪を変色させずにきれいにしてくれる。

dm.de

最後に、ベルリンの好きな部分を教えてください。

日本で仕事してる時仕事でいっぱい海外の街を見ていたけど、ベルリンには本当にびっくりさせられました。「なんだこの素朴さ!」って。
海外で買い物できるCA時代の、UGG、アバクロ、Victoria Seacret、Forever21、、、波のように押し寄せる流行を先取りして「流行最先端」でいることがいかに無駄な消費行動かってことにも気づけました。なのでベルリンで不要な「無駄な遺産」は東京で処分しましたね。
そんな風に、日本の暮らしで培った価値観を全部ひっくり返してくれて、それまで「正しい」「最高」「当たり前」と思い込んでいたものを全部ゼロに戻してくれたのがベルリンでした。
飾る必要のない「素の自分」でいられる場所ってこと。

 

「日本に帰りたい?」って、夫にも聞かれるけど、正直全くそんな気持ちはありません。
デュッセルでおばあちゃんにもなりたくないです。子供がどこで暮らしたいかは本人が決めればいいと思うけど、私は骨を埋める気でベルリンに来てて、それはずっと変わらないと思います。

2022年6月
Admiralbrückeにて

インタビュアーより

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