様々なスタイルを受け容れてくれるベルリン。郊外の街に移住し医療とともに暮らす。

Chisa Matsui

大阪府出身。「ドイツで暮らしたい」という思いから、一件一件就職先を尋ねて回り、現在はベルリン郊外の整骨やリハビリテーションのクリニックにスタッフとして勤務。オンラインドイツ語教室「Vollmond」の受講生としてドイツ語を学習中。


Interview/text : Tatsuo Okazaki
Photo : Kenta Hidaka

簡単な自己紹介をお願いします。

ベルリンとブランデンブルクの境にある郊外の小さい街に住んでいます。
徒歩圏にある整骨やリハビリテーションのクリニックで、スタッフとして働いています。
例えば、足が悪い患者さんに、マッサージや注射・点滴などを行なったりします。
日本にない職種なので説明が難しいのですが、看護師や作業療法士的な側面もあります。

ドイツに移住するまでの経緯を教えてください。

物心つく前から「ドイツに住みたい」と、漠然と思っていました。
きっかけが何かは思い出せなかったんですが、当時習っていたバイオリンの影響はあるかもしれません。実はバイオリンはイタリア発祥なんですが「ドイツ発祥」だと思い込んでて笑。
成長するにつれ、哲学や思想といった分野にも興味を持ったんですが、その方面でもドイツの学者・研究者は多く「ドイツに何かと縁があるな」と気になっていました。
「ドイツに住みたい」と思いながら小中学校を卒業し、高校もドイツとの学校交流がある学校を選びました。高校在学中の語学研修旅行は、ドイツの学生と一緒に短期間で主要都市を回りドイツの概要を把握するといったものでしたが、それをきっかけに改めて「ドイツに住みたい」という思いが強まりました。

 

大学は理系に進みましたが、学びたい興味とのギャップを感じて中退しました。
その後半年ほど働いてお金を貯めて、2019年にワーキングホリデービザでドイツにやってきました。
最初は親戚の住むニーダーザクセン州に住んでいました。お金がなくなったらアルバイトをしてましたが、基本的には仕事に追われることもなく気ままに暮らしていましたね。
ワーホリが終わったタイミングでコロナが流行ってしまったので、一度日本に数ヶ月帰国し、2020年の9月にベルリンに来ました。
ベルリンを選んだのは仕事を探す上で「ベルリンの方が仕事が多いかな」という単純な理由でした。

ベルリンに住み始めた当初はどういう生活でしたか?

ニーダーザクセン州からベルリンに移って「店員さんが英語で話しかけてくる」ことに違いを感じました。
国際色が豊かだからだと思います。なので、ベルリン以外の都市に住んでいると、日本人はちょっと珍しそうに見られているように感じますが、ベルリンだと日本人でも普通。特に珍しがられていない様子です。あと、私が住んでいるのは郊外なので綺麗なんですが、ミッテなど都心の方はもっと雑然としていて、あの感じはベルリンだけですね。

 

ベルリンで仕事を探しはじめたんですが、電車の遅延が多いので、あまり電車を使いたくなかったんです。
だから「徒歩圏内」「レストラン以外」「土日に休める」っていう条件で仕事を探しました。その条件だったら何の仕事でもよかったです。
一件一件尋ねて回りましたが、門前払いはありませんでした。「ドイツ語の扱いがまだ不足しているね。勉強したらまたおいで」みたいなケースだったり、割と丁寧に対応してもらえたと思います。

 

現在勤めている会社は、そんな求職活動の中で見つけました。
最初は「コロナで営業を制限されているので給料を支払えない」ということで仮のビザを発行してもらいました。「お給料が支払えるようになったら就労ビザを発行してもらう」という条件で採用になりましたが、仮ビザの期間は、冬の寒さもあって不安でしたね。
でも、研修で学ばなくてはいけない事がいっぱいあって、その研修をちゃんと実施してくれている点で信頼もありました。
とにかく「自分に今与えられているのはこれなんだ」と言い聞かせて乗り切りました。

お仕事について聞かせてください。

2021年の春にようやく就労ビザを発行してもらい、正式に社員になりました。
仮ビザの期間は結構長かったですが、勉強しないといけないこともそれだけの量ありましたね。今も勉強は継続してやっています。続けないと仕事にならないです。

 

患者のカルテを基に、私たちスタッフで治療計画を立て実践します。
ドイツは患者が医師を選べるので、治療のパートナーとして私たちも指名されるんです。
最初はドイツ語がおぼつかないという理由で指名があまりもらえませんでしたが、だんだん評価や指名をしっかりいただけるようになり、現在は有難いことに毎日忙しいです。

 

職場には、自然療法学士という、医者ではないけど、東洋医学とか漢方や鍼灸治療に精通した専門職のスタッフがいます。日本では珍しいと思います。
死生観にも驚きます。近所の犬が癌に罹ってしまって、苦しむくらいなら安楽死させてあげるのが一般的なようでした。
そんな風に、死とか、健康とか、医療の解釈に大きな差があるから、仕組みも大きく違うんだと思います。

ライフサイクルについて教えてください。

7:00から8:00に起床し、朝ご飯を食べます。出勤は10:00。14:00から1時間休憩します。
休憩時は昼食のために自宅に帰りますね。徒歩圏内の強みです笑。15:00から午後の勤務。18:00に退勤します。
残業はたまにあります。残業した分はお金になったり、休みに変換されるのでそんなにきつくはありません。
帰宅して夕食後は、その日に対応した患者さんの症例など、メモしておいたものを調べたり、資料化したり、次回のための準備に使います。
20:00からは自由時間です。22:00くらいに寝ます。

 

買い物は土日に1週間分まとめて済ませます。平日に行くのは、仕事帰りに軽く買い物するだけで済ませます。休日は、友人と遊んだり近所の森や川を散策する事が多いです。

ベルリンのお気に入りスポットを教えてください。

シュパンダウの旧市街です。1ヶ月に1度くらいの頻度で通っています。
そんなに大きい街ではないんですが、高層ビルとか近代化しているベルリンの中で、古いドイツの街並みが残っているんです。
街並みもかわいいし、一昔前のドイツを再体験できるのが楽しいです!

スポット情報

名前:シュパンダウ旧市街
アクセス:Altstadt Spandau
HP:visit Berlin

ベルリンで暮らす上でのお気に入りアイテムを教えてください。

パンを自分で作っているので、パンのスライサーが非常に便利です。
基本的には、夕食をドイツ式:パンメインの軽食で済ましているので毎日使います。
試したことはないんですが、聞くところによると、肉を薄切りにすることもできるようです。スーパーにあるものよりコンパクトで、厚さの調整も効くので使いやすいんです。
値段は...近所の方からいただいたのでわからないんですが、そんなに高価なものではないはずです。

Zassenhaus Manual Bread Slicer

自家製パン用のクラシックなパンスライサー。希望の厚さにダイアルを設定し、ハンドルを回すだけで、均等にパンをスライスできる。
Amazon.de

私の住まいの近所には高齢の方が多いんです。
出勤時に挨拶しているうちに、だんだん関係ができてきて、会話もするようになって、そういったプレゼントをいただいたり、何かと良くしてもらうようになります。
家で使っている食器は全部いただいたものですね笑。
パンのスライサーはそんなありがたい頂き物の一つです!

他にもお気に入りのものはありますか?

ミックスビールが好きなんですが、ドイツでは種類が豊富でうれしいです。
スペイン産だと思うんですが、テキーラミックスのビールが美味しくてよく買います。

Desperados Tequila Beer

テキーラ風味のラガービール。アルコール度数は5.9%。
スパイシーでレモンの甘さが引き立つ。軽くてさわやかな味が特徴的。
Amazon.de

ドイツ語はどのように勉強しましたか?

勉強を始めたのはドイツに来てからです。最初は語学学校に通いました。
グループワークとかは楽しかったんですが、何人か不真面目な生徒もいるんですよ。
授業を止めたり、宿題をしなかったり。そういう生徒がいると授業の進行が止まるんです。
また、休憩時間にお菓子を食べてたら、ラマダン中のクラスメイトが「お菓子食べないで!」って言ってきたこともありました。結局その子はクラス中にラマダンを強要することになったんですけど、そう言った積み重ねでクラスの雰囲気も悪くなっちゃって。
私がたまたま入ったクラスがそうだったので、他のクラスでもそうだとは思わないんですが、どうしても他人に勉強の足を引っ張られたり、勉強と関係ない要素がストレスになるのが良くなくて、結局1ヶ月くらいで、A1レベルくらいになった時にやめてしまいました。

 

それからは2年ほど独学で勉強していました。
語学学校の入学時に買ったテキストがまだ残っていたので、一人で黙々とやってました。
あとは、ワーホリ期間中、短期で働いたアルバイト先でドイツ人の同僚に教えてもらったり、働きながら覚えた部分も多かったですね。

 

でも、ドイツ語の勉強は最初が一番大変でした。
基礎が身につくまでが結構しんどく、そこが身についてからは少しずつ楽になっていきました。でも適当に勢いでしゃべっている部分も多く、相手の理解力に依存していましたね笑。
語学レベルがA2くらいになった時に、なんとなく自分が使っているドイツ語のミスが自分で自覚できるようになったんです。
それを自覚するようになって「ドイツ語の文法や単語をちゃんと正確に扱えるようになりたい」と、改めて思うようになりました。あと、私の住んでいるエリアはドイツ語しか通じないので、生活するためにもレベルアップは必須でした。

 

それで昨年から、それまで勉強した内容の整理をしようとVollmondに申し込んだんです。
実は、職場では専門的な語句が飛び交っていて、仕事で使うドイツ語はほぼ理解できるんですが、日常会話で不明点が多いんです。
なので病院の受診は余裕ですが、レストランでは不明点という変わった状況です笑。
最初は「プライベートコース」「会話コース」「テキストコース」をたまに予約して順々に受講していました。
今年はもっと本格的に受講しようと決めていて、「会話コース」で会話力を鍛えてもらったり、「テキストコース」で日記を書いて添削をしてもらっています。
最近ようやく、講師の方に「A2くらいになったね」と評価をいただきました。

 

語学学校が残念だったので、プライベートレッスンは本当に私には合っています。
分からない点をその場ですぐ質問できるのがうれしいです。そして、講師の方が日本人なのが私にとっては重要なことだと感じています。それまで音や感覚でドイツ語を使っていたのが、日本人の先生に丁寧に構造で説明をもらうことができるので理解が急速に深まっていっています。その点が、Vollmondを選んでよかった点だと感じています。

オンラインドイツ語教室 Vollmond

申込みからレッスンまで完全オンラインのドイツ語教室。プライベートレッスン、グループレッスンなどレベルや用途にあわせてドイツ語を学ぶことができます。
日本人講師、ネイティブ講師が多数在籍。当サイト、OK!BERLINのスタッフも受講しています。
公式サイト:Vollmond

 

松井さんにとってベルリンはどういう街ですか?

マイノリティも、さまざまなスタイルも受け入れてくれる「過ごしやすい街」だと感じています。例えば、ドイツの医療職では、髪を染めていても、ネイルしていても、タトゥーを入れている人も何も指摘されません。
「仕事とファッションは関係ない」という考えからなのかもしれませんが、これは日本の感覚からすると驚くことだと思います。
そんな街なので、いろいろな人にとって自己表現・自己実現がしやすいという印象です。
日本は、人の身なりはみんな綺麗だし、ホームレスもドイツほどはいない清潔な国だなと思います。でも、20年以上楽しんだのでもう十分かなって笑。
ベルリンにはまだ住みはじめて数年ですが、ホームとしての愛着は十分に湧きました。
この街がホームだし、私の帰る場所であればうれしいな。

2022年8月
Altstadt Spandauにて

Interviewベルリン在住者インタビュー

UnternehmenOK!ベルリン 運営会社

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会社名
合同会社elegirl
代表
岡崎龍夫
所在地
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前4-26-28 原宿V2ビル 2F
事業内容
広告デザイン・WEBサイト開発・WEBマーケティング
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