Ai Negishi
東京都生まれ。女子美術大学デザイン学科、コミュニケーションデザインコース卒業。アパレル会社、テキスタイル制作会社を経て、2012年よりドイツ・ベルリンに移住。
現在一児の母として子育てに奮闘しながら、フリーのテキスタイルデザイナー・グラフィックデザイナーとして活動。
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Interview/text : Tatsuo Okazaki
Photo : Fuko Chiba
ベルリンに移住するまでの経緯を教えてください。
友達がドイツのアウグスブルクっていうところに住んでいて、2011年、日本で会社に勤めていた頃に10日間ほどお休みをもらって訪ねました。その時、ドイツ人が本当に親切で、自然も多くて、とても印象的だったんです。
その旅行の最中に友人が「ベルリンにも遊びに行こうよ」って誘ってくれて、行ってみたらベルリンはアウグスブルクより全然都会なんですけど、緑もいっぱいあって「ここだったら住めるかも」という直感を感じました。
「翌年には住みたい」と思いながら帰国し、帰国後すぐドイツ語スクールに通い準備を始めました。ワーキングホリデービザがまだ取れる年齢だったので、会社も休職し「まずは1年だけ住んでみよう」と考えました。ドイツ語スクールは仕事の退勤後に週1通いだったので、1年で習得できたのは初級の文法と単語くらいでした。
ベルリンに住み始めた当初はどういう生活でしたか?
住み始めたのは2012年の5月の終わりです。実際に現地でドイツ語を使い始めたらほんと通じませんでした。「とにかく生活するためには語学学校に行かないと」と思い、6月から始まる語学学校に3ヶ月通いました。4ヶ月目から日本食のレストランで働き始め、並行してそれまで勤めていた会社の仕事もアウトソーシングで請けました。
1年後、ビザが切れる時に更新を決断したんですが、ドイツからのクライアント実績がなかったので最初断られたんです。それで、3ヶ月で数件のドイツでの業務実績を作らなくてはいけなくなり、飛び込みで営業したり、奔走してやっと数店の契約や推薦をいただいて、1年のフリーランスビザを発行してもらいました。
ビザ取得はスムーズでしたか?
全然です。業務実績のための契約を探している期間に役所から通達が来たんですよ。
「もうビザは発行できないから2週間以内に帰国しろ」って。「話が違う!」ってなって、翌日すぐ外国人局に訪問して「こんな手紙が来たんですけど、どういうことですか?」と聞いてみたら、何か手違いがあったようでことなきを得ました。
手紙が届いた時「終わった...」って絶望して、その前日は眠れなかった。凄く怖かったです。
ドイツ生活で色々大変な目には遭ったと思いますが、その頃が一番大変だったと思います。
それからはだんだん安定してきました。10年間、年金や保険、お役所手続きは自分で全部やってきたので、そういう腕力も身につきました。今では役所からの通達に対しても免疫ができて「どんな手紙が来ても連絡すれば大丈夫」という気になっています。
ご結婚・出産・育児について聞かせてください。
韓国人の夫とは語学学校で出会いました。付き合った当時夫はフリーランスでしたが、現在は会社に勤めています。
2018年に結婚して、子供は2020年に生まれました。出産時、ドイツは病院がそれほど手厚くないようで、症状を全部自分で伝えなければいけない。こちらがアピールしないと熟考してくれない部分があり、その点はとても大変でした。
子供が産まれると、3ヶ月以内に日本大使館に出生届をださないといけないのですが、事前にドイツで国民番号と出生証明書を発行する必要があるんです。コロナ禍ということもあって、その手続きがなかなか進まず、結局リミット目前に大使館になんとか提出できて、ギリギリ日本の国籍が無事に取れたんです。間に合わないと子供に日本国籍がなくなってしまうのでヒヤヒヤしました。こう振り返ると、私の場合は、けっこう役所が災難のタネになってます。
日本での役所手続きはこちらが聞かなくても誘導して説明してくれるケースが多いと思いますが、ドイツではそうはいきません。言うべきことは役所であっても言わなくてはいけないのは大きな違いです。
育児に関しては、保育園に入れるまではあまり手が掛からなかったのですが、保育園の慣らし保育は時間がかかり大変でした。
同時にドイツのコミュニティに触れる機会がさらに多くなり、保育園の先生とのやり取りなどで文化の違いや語学面での障壁を感じることが増えました。
ドイツの保育園は日本の保育園とは異なり、子供の様子を共有する連絡帳などはありません。お迎えの時に、1日の様子を先生に聞いて終わりです。先生によっては「変わらず元気だった!」というのがお決まりの返答です。
保育園に通わせ始めた時は、そのあっさり感に馴染めず、不安と不満続きで、日本の手厚い保育園システムが恋しくなりました。でも子供が保育園に慣れ始めたころからドイツの保育園のいい部分も目に入るようになりました。
例えば、日本では調和や協調を重んじて「みんなで一緒に歌いましょう」って方針が多かったように思いますが、ドイツでは「歌いたくなければ歌わなくていい」というように自主性を重んじる点が、私は好きです。教育の面では、そういう、いい意味での放任主義を感じています。子供同士をとにかく遊ばせる。意思を尊重する。大人はあまり手を掛けない。
反面、ベビーカーを引いてバスや電車に乗るときには、周囲の人が当たり前にこちらを優先してくれるという面があって、そういう部分では非常に社会が育児に寛容ということを実感します。
また子供に対して子供だからという感覚がなく「ひとりの人間」として平等に扱います。赤ちゃん言葉で「しましょうねー」みたいな言い回しをしません。大人が子供に対して「屈んでこない」っていうスタンスが大事なことのような気がしています。
ライフサイクルを教えてください。
6:30に起床し、パンとヨーグルト、フルーツと言った簡単な朝食を用意します。
8:30〜9:00までに保育園に預けます。8:00に預けたら8:30に保育園で朝食を出してくれるのですが、うちの場合は朝に余裕があるのと、ドイツ食はお昼だけにしたいので朝食は家で食べています。保育園の目の前にスーパーがあるので、買い物はその時に済ませて、だいたい9:40には帰宅します。
午前中はそこから家事を始めます。
洗濯は保育園の送りの前にスタートさせていますが、干したり掃除したりしているうちに11:00になります。そこから自分の仕事のメールチェックなどから徐々に始めます。
12:00頃にお昼食べて、仕事があればそこから2〜3時間集中します。
15:20には仕事を一通り切り上げて、15:40ぐらいに保育園に迎えに行きます。
そのまま2人でちょっと散歩して、公園で遊んで17:00くらいに帰宅します。
帰宅後夕飯の準備を始めて、18:00から食事をします。
18:30までに食べ終えて、自由に遊ばせて19:00くらいにお風呂に入れます。
20:30には子供が就寝します。
そこでようやく一息つけます。
夫婦で話し合ったり休息する時間を大切にしていますが、次の日に疲れが残らないよう22:30には寝てしまいます。
ドイツと日本のライフスタイルの違いをどこに感じますか?
マッサージや美容院は、日本の方が店舗数が圧倒的に多いので気軽に行けると思います。
ドイツではもう少し計画的に行かないと難しいです。同じ理由でカフェなどの寄り道をする機会も少ないです。私としてはその分時間にゆとりを持って落ち着いて暮らせています。
また、保育園に迎えに行く男性が多いのも違いだと思います。朝はママが送りに行って、夕方はパパが迎えに行くケースを多く見ます。始業時間が早い会社が多いので、早く出社すればその時間に間に合うんでしょうね。
そんな風に、生活の中に男女平等に育児するのが普通なので、子供の扱いに慣れているお父さんは多いです。日本で「イクメン」って言葉がありますが、ドイツではそのような言葉はありません。もしその言葉をドイツ人が聞いたら議論が始まるでしょう。
ドイツ人から見習うところは、子供とのコミュニケーション量です。
子供が公園で危ない行動をした時に「何で危ないのか」ということを、私が子供に注意する10倍ぐらいの情報量で説明してます。同じように、褒めることも「すごいね、すごいね!」だけではなく、「昨日できなかったことを今日できるようになって、これこれこういう努力をしたからすごいね!」みたいな言い方をしていて感心します。
「生きる力」をつけるドイツ流子育てのすすめ
ドイツの教育の目標は「大人になったら一人で生きていけること」である。子どもの個性を大切にし、長所を伸ばすヒント満載の一冊。
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ベルリンのお気に入りスポットを教えてください。
私はダーレムにあるDomäne Dahlemが好きで、頻繁に生気をもらいに行ってます。
広大な敷地に農場、畑、美術館、工房があり、放牧されている動物を間近に見ることができたり、農業体験も出来ます。年に何回かのジャガイモ掘りとかカボチャ採りといったイベントもおすすめです。
また毎週末開催される有機野菜のマーケットも長閑でいいです。
スポット情報
名前:Domäne Dahlem
住所:Königin-Luise-Straße 49, 14195 Berlin
アクセス:Uバーン Dahlem-Dorf駅から徒歩2分
営業時間:7:00-22:00
HP:公式サイト
その近くにあるThielparkも気に入っていて、週に1度は行っています。
そこで深呼吸するだけで身も心も浄化され、軽やかになります。鴨やリスもいます。駅を降りたらすぐのところにあるのでアクセスもしやすく、保育園から子供を連れて帰る途中にも寄ることもあります。
スポット情報
名前:Thielpark
住所:Bitterstraße 16, 14195 Berlin
アクセス:Uバーン Freie Universität (Thielplatz)駅から徒歩1分
HP:Wikipedia
ベルリン生活のお気に入りアイテムを教えてください。
チーズとバターです。とても安くて種類が豊富な点で気に入ってます。
ブラータチーズって言う、モッツアレラより柔らかいチーズがあって、最近はそれにすっごいはまってます。それぞれのスーパーで売っているので、子供の就寝後に、食べ比べながらワインのつまみにするのがいいストレス解消になっています。
EDEKA GENUSSMOMENTE|Burrata 50% Fett i. Tr.
ブラータチーズはイタリア原産のフレッシュチーズ。モッツァレッラチーズと同じ製法で作られる。もともとイタリア語で「バターを入れた」と言う意味。味は少し甘味のあるバターの香りがある。EDEKAの製品がおすすめです。
あとパン好きの私にとっていい品質のバターが、低コストで購入できるのもうれしいです。日本で流行りのフランスのECHIREバターは、ドイツでは安く買うことができて、帰国時のお土産にすごい喜んでもらえます。バターの味は日本の製品よりヨーロッパの製品の方が牛乳感が濃く感じます。美味しいチーズとバターが食べ放題なのは私のドイツ暮らしのしあわせなポイントです。
ECHIRE
乳製品産業が盛んなフランス中西部・エシレ村で生産される発酵バター。クリーミーな口あたりと、芳醇な香り、ヨーグルトのような軽い酸味が特長。
1894年からバター作りをはじめ、昔ながらの製法で代々伝わる乳酸菌を扱い、味を守っている。
公式サイト
最後に、ベルリンの好きな部分を教えてください。
コロナ禍で16年振りに新政権になったことで、今後移住者が住みやすくなるのか、住みにくくなるのか、と言う点の不安はあります。その反面、ベルリンでは新規のマンション建設・開発が増えていて、住宅問題が一気に解消される雰囲気もあり、どう変わっていくか気になっています。
私が好きなベルリンの要素は「素朴さ」です。
首都でありながら飾らず素朴で、ちょっとダサいところも、人間的で気に入っています。東京とかパリとかロンドンとかの大都会とは全然違う「素朴だからいい」をずっと保ち続けてくれたらと思っています。
2022年6月
Thielparkにて
インタビュアーより
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